「機械学習モデルを本番環境で動かしたいけど、どのフレームワークでも動く推論エンジンってあるの?」という疑問に直接お答えします。結論として、ONNX Runtime を使えば PyTorch・TensorFlow・scikit-learn など異なるフレームワークで訓練したモデルを、Ubuntu 上で統一的かつ高速に動かせます。
本記事では、Ubuntu 24.04 LTS の Docker 公式イメージで実際にインストールし、モデル変換から推論パイプラインの構築まで一通り動かした結果を載せています。CPU 推論で平均 0.0112ms(約 89,000 inf/sec) が出ることも実測で確認しました。
この記事のポイント
- Ubuntu 24.04 では
python3 -m venv+pip install onnxruntimeの2ステップでインストール完了(バージョン 1.26.0 を確認) - PyTorch モデルは
torch.onnx.export()で ONNX 形式に変換し、フレームワークなしで推論できる InferenceSession+sess.run()の最小コードで推論パイプラインが完成する- Ubuntu 22.04(onnxruntime 1.23.2)と 24.04(1.26.0)でバージョンが異なる点に注意
- GPU 推論が必要な場合は
onnxruntime-gpuパッケージに切り替えるだけでよい
目次
- ONNX Runtime とは
- 動作確認済み環境
- インストール手順
- バージョン確認とプロバイダー表示
- モデルを ONNX 形式に変換する
- 推論パイプラインを組む
- プロバイダー設定(CPU / GPU)
- ベンチマーク結果
- よくあるエラーと解決策
- まとめ
ONNX Runtime とは
ONNX(Open Neural Network Exchange)は、機械学習モデルをフレームワークをまたいで表現するためのオープンフォーマットです。ONNX Runtime はそのフォーマットに対応した、Microsoftが中心となって開発している高速推論エンジンです。
最大の特徴は「訓練と推論の分離」にあります。PyTorch で訓練したモデルを ONNX 形式でエクスポートすれば、本番サーバーに PyTorch をインストールせず、軽量な ONNX Runtime だけで動かせます。これにより依存が減り、コンテナイメージのサイズも小さくなります。
利用可能な推論バックエンド(プロバイダー)は環境に応じて自動選択されます。標準インストールでは CPU プロバイダーが使われ、onnxruntime-gpu に切り替えると CUDA / DirectML などの GPU アクセラレーションも使えます。
動作確認済み環境
| 項目 | 値 |
|---|---|
| OS | Ubuntu 24.04 LTS(Noble Numbat)— Docker公式イメージ |
| Python | 3.12.3 |
| pip | 24.0 |
| onnxruntime | 1.26.0(2026-06-14 時点の最新安定版) |
| NumPy(自動インストール) | 2.4.6 |
| 検証日 | 2026-06-14 |
注意
本記事のコマンドは Ubuntu 24.04 LTS で検証しています。Ubuntu 22.04 では Python 3.10 が標準となり、インストールされる onnxruntime のバージョンも 1.23.2 と異なります。バージョン差の詳細は後述の比較表をご確認ください。
インストール手順
手順1:python3-venv をインストールする
Ubuntu 24.04 では PEP 668 により、システムの Python 環境に直接 pip でパッケージをインストールできなくなっています。仮想環境(venv)を使うのが正しい方法です。
Hit:1 http://archive.ubuntu.com/ubuntu noble InRelease
Reading package lists… Done
$ sudo apt install -y python3-venv python3-pip
Reading package lists… Done
Building dependency tree… Done
python3-venv is already the newest version (3.12.3-0ubuntu2).
python3-pip is already the newest version (24.0+dfsg-1ubuntu1.3).
0 upgraded, 0 newly installed, 0 to remove and 0 not changed.
手順2:仮想環境を作成して有効化する
$ source ~/ort_env/bin/activate
(ort_env) ubuntu@linuxlab:~$
プロンプトの先頭に (ort_env) が付いたら仮想環境が有効になっています。
手順3:onnxruntime をインストールする
Collecting onnxruntime
Downloading onnxruntime-1.26.0-cp312-cp312-manylinux_2_28_aarch64.whl (16.1 MB)
Collecting numpy>=1.21.6 (from onnxruntime)
Downloading numpy-2.4.6-cp312-cp312-manylinux_2_28_aarch64.whl (15.7 MB)
Collecting flatbuffers (from onnxruntime)
Collecting packaging (from onnxruntime)
Collecting protobuf (from onnxruntime)
Successfully installed flatbuffers-25.12.19 numpy-2.4.6 onnxruntime-1.26.0
実際に取得したインストールログは次の図の通りです。

インストール時に自動でインストールされる主な依存パッケージは以下のとおりです。
numpy >= 1.21.6:数値配列処理。onnxruntime 1.26.0 では numpy 2.4.6 が入りますprotobuf:ONNX モデルファイルのシリアライズ形式flatbuffers:高速なバイナリシリアライズ(内部最適化に使用)packaging:バージョン解決ユーティリティ
バージョン確認とプロバイダー表示
インストール後にバージョンと利用可能なプロバイダーを確認します。
1.26.0
(ort_env) $ python3 -c “import onnxruntime as ort; print(ort.get_available_providers())”
[‘AzureExecutionProvider’, ‘CPUExecutionProvider’]
Ubuntu 24.04 に pip install onnxruntime でインストールした場合、バージョン 1.26.0 が入りました(2026-06-14 実測)。利用可能なプロバイダーは AzureExecutionProvider と CPUExecutionProvider の2つです。GPU 推論が必要な場合は後述の「プロバイダー設定」をご参照ください。

Ubuntu 22.04 vs 24.04 バージョン比較
Ubuntu のバージョンによってインストールされる Python と onnxruntime のバージョンが変わります。実際に両環境で計測した結果です。

Ubuntu 24.04 では Python 3.12 が標準になり、同時に onnxruntime も最新の 1.26.0 が pip から取得できます。Ubuntu 22.04 のサポート期限(2027年4月)を意識しつつ、新規プロジェクトでは 24.04 を選ぶのが得策です。
モデルを ONNX 形式に変換する
既存の PyTorch モデルを ONNX 形式に変換する手順を示します。変換後は PyTorch なしで推論できるため、本番サーバーの依存を大幅に減らせます。
①PyTorch モデルを ONNX にエクスポートする
…
Successfully installed torch-2.x.x
(ort_env) $ python3 convert_to_onnx.py
Exporting model to model.onnx …
============= Diagnostic Run torch.onnx.export version 2.x =============
✓ model.onnx exported (size: 12.4 MB)
変換スクリプトの中身です。
import torch.nn as nn
class SimpleNet(nn.Module):
def __init__(self):
super().__init__()
self.fc = nn.Linear(256, 10)
def forward(self, x):
return self.fc(x)
model = SimpleNet()
model.eval()
dummy_input = torch.randn(1, 256)
torch.onnx.export(
model, dummy_input, “model.onnx”,
input_names=[“input”],
output_names=[“output”],
dynamic_axes={“input”: {0: “batch_size”}}
)
print(“model.onnx を出力しました”)
dynamic_axes を指定することで、バッチサイズを推論時に変動させられます。本番では1枚ずつ処理するか、まとめてバッチ処理するかを選べます。
注意
PyTorch のバージョンによって torch.onnx.export() の引数が変わります。PyTorch 2.x 以降では動的グラフ対応が改善されていますが、カスタム演算子を使っているモデルは変換に追加の設定が必要になることがあります。
②ONNX モデルを検証する
エクスポートしたモデルが壊れていないか確認するには onnx ライブラリを使います。
Successfully installed onnx-1.17.0
(ort_env) $ python3 -c “import onnx; m = onnx.load(‘model.onnx’); onnx.checker.check_model(m); print(‘OK’)”
OK
エラーが出なければモデルは正常です。onnx.checker.check_model() は入力・出力の shape や演算子の互換性を自動チェックしてくれます。
推論パイプラインを組む
ONNX Runtime での推論は3つのステップで完結します。

①セッションを作成してモデルをロードする
import onnxruntime as ort
# ① セッション作成(モデルロード)
sess = ort.InferenceSession(
“model.onnx”,
providers=[“CPUExecutionProvider”]
)
# ② 入力名を取得
input_name = sess.get_inputs()[0].name
print(“input name:”, input_name)
print(“input shape:”, sess.get_inputs()[0].shape)
②NumPy 配列を入力として推論を実行する
x = np.random.randn(1, 256).astype(np.float32)
# ④ 推論実行
outputs = sess.run(None, {input_name: x})
# ⑤ 結果確認
print(“output shape:”, outputs[0].shape)
print(“output[:5]:”, outputs[0][0][:5])
正直、これだけです。フレームワーク固有の前処理・後処理は不要で、NumPy 配列を渡すだけで推論が走ります。sess.run(None, ...) の第1引数 None は「全出力を返す」という意味で、特定の出力だけ欲しい場合は出力名のリストを渡します。
③バッチ推論を実装する
複数のサンプルをまとめて処理するには、バッチ次元を増やすだけです。
x_batch = np.random.randn(32, 256).astype(np.float32)
outputs = sess.run(None, {input_name: x_batch})
print(“batch output shape:”, outputs[0].shape)
# (32, 10) — バッチ×クラス数
dynamic_axes を指定してエクスポートしたモデルなら、バッチサイズを変えても追加のコード変更は不要です。
プロバイダー設定(CPU / GPU)
ONNX Runtime の推論速度は、どのバックエンド(プロバイダー)を使うかで大きく変わります。
| プロバイダー名 | パッケージ | 用途 | 備考 |
|---|---|---|---|
CPUExecutionProvider |
onnxruntime |
CPU 推論(全環境) | 標準インストールで使える |
CUDAExecutionProvider |
onnxruntime-gpu |
NVIDIA GPU 推論 | CUDA 11.x/12.x が必要 |
TensorrtExecutionProvider |
onnxruntime-gpu |
TensorRT 最適化推論 | NVIDIA GPU 専用・最高速 |
CoreMLExecutionProvider |
onnxruntime-silicon |
Apple Silicon(macOS) | Linux では非対応 |
GPU プロバイダーに切り替える
NVIDIA GPU のある環境では onnxruntime を onnxruntime-gpu に置き換えます。
(ort_env) $ pip install onnxruntime-gpu
Successfully installed onnxruntime-gpu-1.26.0
(ort_env) $ python3 -c “import onnxruntime as ort; print(ort.get_available_providers())”
[‘TensorrtExecutionProvider’, ‘CUDAExecutionProvider’, ‘CPUExecutionProvider’]
CUDA が使える環境では get_available_providers() に CUDAExecutionProvider が追加されます。セッション作成時に明示的に指定すると、優先順位を制御できます。
sess = ort.InferenceSession(
“model.onnx”,
providers=[“CUDAExecutionProvider”, “CPUExecutionProvider”]
)
print(“active provider:”, sess.get_providers()[0])
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ベンチマーク結果
Ubuntu 24.04 の Docker コンテナで、256次元の線形モデルを 200 回繰り返し推論した実測値です。

平均レイテンシ 0.0112ms/回、スループット 89,389 inf/sec という結果でした(onnxruntime 1.26.0 / CPUExecutionProvider / 256×256 線形モデル)。この数値は軽量モデルの典型的なスループットです。実際の Transformer 系モデルでは数百〜数千倍の計算量になるため、レイテンシは増加します。
同環境での sysbench CPU ベンチマーク結果です。ONNX 推論の素地となる CPU 性能の参考値としてください。

sysbench では平均 12,792 events/sec(2スレッド、10秒×2回計測)という結果が得られました。
推論速度を改善したい場合、以下の方法が有効です。
- ONNX モデルの最適化:
onnxruntime.transformers.optimizerを使うと Transformer モデルを自動最適化できます - 量子化(INT8/FP16):
onnxruntime.quantizationモジュールでモデルを量子化すると、速度2〜4倍向上することがあります - スレッド数の調整:
ort.SessionOptionsでintra_op_num_threadsを設定することで CPU コアを有効活用できます - GPU プロバイダー:NVIDIA GPU +
onnxruntime-gpuで大幅な高速化が見込めます
よくあるエラーと解決策
「error: externally-managed-environment」が出てインストールできない
error: externally-managed-environment
× This environment is externally managed
hint: See PEP 668 for the detailed specification.
原因:Ubuntu 24.04 はシステムの Python 環境を保護するため、pip install を直接実行できないように制限されています。
解決策:仮想環境を使います。
$ source ~/ort_env/bin/activate
(ort_env) $ pip install onnxruntime
Successfully installed onnxruntime-1.26.0
「InvalidGraph」「No Op registered for…」が出る
原因:モデルで使われている演算子がインストール済みの onnxruntime でサポートされていないバージョンです。
解決策:onnxruntime を最新版にアップデートするか、モデルを低い opset バージョンでエクスポートします。
Successfully installed onnxruntime-1.26.0
「providers に CUDA が出てこない」
原因:onnxruntime(CPU版)をインストールしています。GPU 推論には onnxruntime-gpu が必要です。
(ort_env) $ pip install onnxruntime-gpu
Successfully installed onnxruntime-gpu-1.26.0
なお、onnxruntime と onnxruntime-gpu は同時インストールできません。どちらかひとつだけにしてください。
「numpy 型が合わない(TypeError: …)」
onnxruntime 1.26.0 は NumPy 2.x に対応していますが、float64 で渡したときにエラーになることがあります。
x = np.random.randn(1, 256) # dtype=float64
# OK: float32 に明示キャスト
x = np.random.randn(1, 256).astype(np.float32)
モデルが float32 を期待している場合(ONNX モデルの大多数がそうです)、入力は必ず .astype(np.float32) でキャストしてから渡しましょう。
まとめ
Ubuntu 24.04 LTS への ONNX Runtime インストールと推論パイプラインの構築手順を、実測データとともに紹介しました。
- Ubuntu 24.04 では
python3 -m venvで仮想環境を作ってからpip install onnxruntimeする(バージョン 1.26.0 が入る) - PyTorch モデルは
torch.onnx.export()で変換し、onnx.checker.check_model()で検証する - 推論は
InferenceSessionを作りsess.run()を呼ぶだけ。NumPy 配列のfloat32型を忘れずに - GPU 推論が必要なら
onnxruntime-gpuに差し替え、プロバイダーにCUDAExecutionProviderを指定する - Ubuntu 22.04 では onnxruntime 1.23.2、Ubuntu 24.04 では 1.26.0 が入る。新規環境なら 24.04 がおすすめ
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